【かんたん・わかる家庭の医学解説】
筋ジストロフィー・ガワーズ兆候
■概要:
●筋ジストロフィーは主に進行性の筋力低下と筋萎縮を示す遺伝性筋疾患の総称。

進行性の疾患であるため進行性筋ジストロフィーprogressive muscular dystrophy(PMD)とほぼ同一視される場合があります。またこの病気はミオパチーmyopathy(筋原性疾患)の中の代表的なもとと言えます。以下に代表的な病気を取り上げます。

●デュシェンヌ型筋ジストロフィーDuchenne muscular dystrophy(DMD):
デュシェンヌ(1806-1875)というフランスの精神科医によってパリで開業医を続けながら神経疾患の 臨床研究を行い、1868年にこの疾患の報告を行ったのが病名の由来です。 この病気は筋ジストロフィーの中で最も患者数の多い、また経過が進行性で重症な疾患です。

原因は性染色体の1つのX染色体にあって、女性の場合は染色体がXXと並ぶためにどちらか一方が正常であれば発病せずに保因者となります。 しかし男性の場合はXYと並ぶため、ひとつだけのX染色体に異常が見られれば「X連鎖性劣勢遺伝」によって男性のみに発病します。 (しかし女性の場合でも稀に軽度の症状を示すこともあります。)

そして筋肉の細胞膜を構成する蛋白質であるスペクトリンspectrin族に含まれるものとして ジストロフィンdystrophinがあり、 特にその中で骨格筋に強く発現するM-ジストロフィンの欠損が生じるために、筋肉が徐々に崩壊してしまいます。


■症状:
5歳以下で歩行障害(困難)のかたちで発病して9歳位で歩行不能になってしまいます。 それでもふくらはぎが肥大(仮性肥大)して一見筋肉がついて頑丈そうに見えますが、筋力低下が続きます。
●ガワーズ兆候Gowers sign(登攀性起立;登坂性起立とうはんせいきりつ):
普通、寝ている状態などから起き上がる時には腕の力で支えながら腰と膝を十分に曲げて 一旦しゃがむ姿勢をとったりして立ちますが、患者の場合は 手足の筋肉が衰えてしまっていますので、一旦転んでしまうと起き上がる際に 四つん這いにひざまずいて、その姿勢から足を伸ばし、上体を上げるために自分の足を手でよじ登るようにして立ちます。(1879年に英国の臨床神経学者ガワーズGowersWR;1845-1915が報告)

また背中の筋肉も衰えますから背骨が歪曲して脊椎側彎症(せきついそくわんしょう)を起こします。 20歳前後で寝たきりとなり、数年を経て呼吸不全や心不全を起こし感染症などで殆ど30歳前に死に至ります。
●ベッカー型筋ジストロフィーBecker muscular dystrophy(BMD):
前者のデュシェンヌ型はジストロフィンが欠損することが原因ですが、ベッカー型は異常なジストロフィンが形成される点に違いがあります。 前者は重症型、後者のベッカー型は良性型とも呼ばれることがあります。 発症期は幅が広く、5-25歳で30歳過ぎで発症することはありません。
■症状:
症状や筋肉が低下していく成り立ちはデュシェンヌ型とほぼ同じですが、その速さや程度はゆっくりとしたものです。患者の大半は40歳代まで生存します。
■診断:
まず男児で筋力の低下が著しい状態であればこの疾患を疑います。 またこの病気は血液検査を行うとクレアチンキナーゼ creratine kinase(CK)と言う酵素が筋細胞から血液中に流出してしまうために、その血中濃度が著しく高くなっているのを確認出来ます。

【クレアチンキナーゼ測定法】:測定法は幾つもあって、無機リン酸法、蛍光法、NAD法、NADPH法 などがあります。この細胞質型酵素は二量体となっており、M(筋)型とB(脳)型のサブユニットの組み合わせで、MM、MB、BBの3種のアイソザイム(イソチーム)isozymeが成り立ちます。 その内、CK-MMの数値が高値に出ると、進行性筋ジストロフィーの疑いが出てきます。>

しかし他の筋肉の病気でもこの数値が上がる場合もありますので、決定的要素ではありません。 また前述しましたように筋肉中のジストロフィンの数値が下がっていたり異常を確認出来ます。 顕微鏡検査では筋肉の壊死組織や筋繊維の肥大したものや脂肪などを見ることが出来ます。

更に筋心電図診断と神経伝導試験を行います。 神経伝導試験では、神経が信号を伝える速度を計測します。単に筋肉の異常が原因の場合は、この速度と筋心電図の検査結果に 異常は現れません。


■処置
この病気を治せる薬はまだありません。しかし遺伝子に関係した研究は進みつつありますので、筋肉がジストロフィン の生産を促進させる薬が将来出来る可能性はあります。 しかし、理学療法と運動療法によって筋肉の衰えや収縮のスピードを幾分か遅らせることは可能です。

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